不当解雇 その11 【配置転換 『忍辱』】

さて、不当解雇 その9 【強要?脅迫?】の2営業日後のことである。
午前9時頃、突然、当時の所属部長から、会議室に呼ばれる。
部長   「今日から、君、○○部へ異動だから。」
ネコポン 「…」
異動だから? 
部長   「昼までに席、移って。」
本当に、この会社、めちゃくちゃ。無法地帯。さすがに、この頃は、この会社なら何でもアリだな、とは思っていたが、それにしても、ここまでやるのか?(今なら、当然やる、と答えるが、当時はこう思った。) 事前告知なし、当日異動。
部長   「そういうわけなんで。」
ボクも子供ではない。ここで、話を聞くつもりのないヤツを相手に議論をしても、無駄なことは分かっている。自分を抑えることも必要。
ボクは、黙って、昼までに自分の席を移動した。


昼頃、社内全員宛に、「ネコポン ○○部へ異動」とのメールが一斉送信される。


席の移動が終わり、その日の午後、異動先部長と、副部長(?)に会議室へ呼ばれる。
部長、副部長を前にして、
ネコポン 「今日から、よろしくお願いします!」
心の傷、動揺を隠し、新しい部署での挨拶。
ボクも社会人。頭に来ることがあっても、おかしいと思うことがあっても、頭を下げて従わなければならない場合があることも、理解している。まずは、挨拶から!
部長たち 「…」(無言、視線すら合わせない)
えっ!? よろしくお願いしますって、新しい部署での第一声だよ? 無視って…。 
副部長  「うちの部署、いろんな業務があるけど、みんなそれぞれ担当もっているのよ。」
仏頂面、というより、敵意? 悪意? を感じるんだけど。 これって、ボクがマイナス思考で、そう感じているだけ??
副部長  「とりあえず、ネコポンさんにやってもらう業務としては、郵便の受信発信。」
ノートにメモをとるボク。
副部長  「給茶機の掃除、コーヒーのカス捨て。」
…。メモを取っていた手が止まる…。
掃除? コーヒーのカス捨て? ボクが?
さらに続ける副部長
副部長  「電話ね、受付。来客対応。」
…。ここから、ノートのメモは、完全に止まっている。
後は、会議室の机拭きとか、植木への水やりとか、話してたと思う。
ただ、ボクの脳は、停止していた。
話しをメモに取る手も、停止していた…。


これが、2営業日前に代表取締役がボクに言った、「責任のない仕事」「裁量権のない仕事」(こちらの日記参照)だと理解するまで、多くの時間が必要だった。


新しい席に戻ったボクが最初に命令された仕事は、『切手剥がし』だった。
返信用封筒に貼付されている未使用の切手を、剥がすという、単純作業。もちろん、こんなこと、学生時代のアルバイトでもやったことはない。
後輩らが、ボクの席の隣を通る。そして、異変に気付く。ネコポンが、切手剥がしをやっている。何で?
屈辱感…
いや、決して、切手剥がしをしている人を卑下するわけでも、軽蔑するわけでもない。
ただ、これまで自分が大学で学んできたこと。卒業後働いてきた会社での業務、責任者としての仕事…、それらからは、まったく程遠い作業だ。
それが、今日から突然、ボクの仕事となったのだ。



ボクは馬鹿ではない(と思っている。思いたい)。そして、一社会人だ。そう自分に何度も言い聞かせた。どんなに理不尽なことだとしても、我慢しなければならない場合もある。
そして、耐えた。
『忍辱』(「にんにく」と読むよ)という言葉がある。この言葉を何度も心に刻み、耐えた。そして、思考を切り替えた。いや、切り替えようとした。脳と身体が切り離された感覚があった。


そんなとき、ある従業員(Yさん)が声をかけてきた。
Yさん  「ネコポンさん、ちょっといい?」
ボクは、突然現実の世界に呼び戻され、慌てた。
ネコポン 「あっ、今ですか?」
どう考えても、今いい?って聞いているのは、明白だったが、その時は、そんな余裕というか状況判断すらできなかったのだ。
Yさんと、会議室へ向かう。人に聞かれたくない話をするときに使われる、会議室。
Yさん  「えーっ、どうしたの?メール見てびっくりしたよ。」
メールとは、先ほど書いた、「異動」を知らせるメールのこと。
ネコポン 「私も、今日、朝突然言われたんですよ…。○○部へ異動って。」
Yさん  「えーっ、なんなんだよ!それ。 そうなの?」
ネコポン 「Yさん、知らなかったんですか? Yさんは、○○室長と仲良いから、知っているのかと思っていました。」
Yさん  「いやいや、知らない。室長は、あまりそういう内部の話し、僕にしないから。それにしても…」
Yさんも、会社のやり方に疑問をもったようだ。ボクは、簡単にこれまでの経緯や会社から辞めろと退職を強要されていることを打ち明けた。
Yさんは、親身に聞いてくれた。



その日以降、ボクは耐えた。
『忍辱』。
今は、議論・反論するべき時ではないと。今までの会社のでっち上げ等に鑑みれば、ボクが何か発言した段階で、会社は、ボクが不平・不満を言っている。職務命令違反、などとの新たなでっち上げをされかねないのは明らかだった。
黙々と、自分を押し殺し、作業をこなした。
それでも、次から次へと、ハラスメントは続いた。
周囲に聞こえるように、わざと人前で大きな声で言う。
「ネコポンさん、ちょっといい? はい、これはハイター。雑巾、汚れてるでしょ? 洗ってきて。」
「コピー用紙、ないんだけど。ちゃんと補充して!」
「会議室の机、拭いた? 手の跡が残ってる。」
「ネコポンさん、帰る前に、コーヒーポット、洗ってから帰って!」
「紙コップ、減ってるじゃん。あなたの責任でしょ?」
「ポストに郵便物入ってるじゃん、ちゃんと持ってきてよ。」
「電話鳴ったら、3回以内にとって。」

……
もういい?
まだまだあるけど、もういい?


こんな感じだよ。配置転換後のボクの毎日は。
会社側の辞めさせる為の必死感は、伝わってきた。あからさまな嫌がらせ。ハラスメント。
でも…
『忍辱』。 




最後に、判例を載せておくね。
 

事件名 : 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 : バンク・オブ・アメリカイリノイ事件
事案概要 : 受付業務相当に降格したことは人格権を侵害しており不法行為が成立するとした事例。
参照法条 : 労働基準法2章、民法709条、民法710条
体系項目 : 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
裁判所名 : 東京地裁
事件番号 : 昭和63年 (ワ) 12116 
裁判結果 : 認容,一部棄却
出典 : 労経速報1581号5頁/労働判例685号17頁
書簡の受発送、書類の各課への配送等の単純労務と来客の取次を担当し、業務受付とはいえ、原告の旧知の外部者の来訪も少なくない職場であって、原告にふさわしい職務であるとは到底いえず、原告が著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは推測に難くない。
 原告は、同年五月から、備品管理・経費支払事務を担当したが、備品管理等の業務もやはり単純労務作業であり、原告の業務経験・知識にふさわしい職務とは到底いえない。
 原告に対する総務課(受付)配転は、これを推進したB人事部長自身、疑念を抱いたものであって、その相当性について疑問があり、オペレーションマネージャーのCは、受付業務に就いていた原告に対し、「エンジョイしているか。」と話しかけるなどしており、かつて昭和五七年三月、Dを「メッセンジャークラーク」に発令したときと同様、原告ら元管理職をことさらにその経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、行内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、自ら退職の決意をさせる意図の下にとられた措置ではないかと推知されるところである。そして、このような措置は、いかに実力主義を重んじる外資系企業にあり、また経営環境が厳しいからといって是認されるものではない
 そうすると、原告に対する右総務課(受付)配転は、原告の人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、被告に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成するというべきである。 そして、原告が総務課(受付)配転を受ける前後の経過に照らし、右配転によって原告が受けた屈辱感・精神的苦痛は、甚大なものがあると認められ、原告の右精神的苦痛は、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、慰謝料としては金一〇〇万円をもって相当と認める。

  つづく…